ICTを用いた国語科教育
タイトルイメージ

国際標準の「読解力」の育成に有効なハイパー意味マップ


ホームEssay>夢の先


-夢の先-夢を持つことは本当にいいこと?

私たちが「がんばる」時は、

  1. 欲しいものを得るためにがんばる。
  2. 怖いものから逃れるためにがんばる。(怖いからがんばる。)
  3. 怒りをエネルギーにしてがんばる。

という三つのパターン、またはこれらが混ざったものがほとんどのように思います。

欲望にはきりがなく、一つのものを得ると、次にはそれ以上のものが欲しくなる(得るごとに欲望は大きくなる)というのはみなさん誰もが経験していることでしょう。つまり、欲しいものを得るために頑張るということは、満足することがない道のりを進むということで、それはまるで歩けば歩くほど乾きが増していく灼熱の砂漠を行くようなものだということです。さらに、欲望が肥大するにしたがって手に入れるための努力も増大していくものです。努力には正しい努力と間違った努力とがありますが、正しい方法で努力することが遠回りに思えてきます。だから、できれば楽をして結果を手に入れようと考えるようになります。なにしろ、このタイプの人にとっては欲しいものを手に入れるという「結果」が全てですから、「結果」を得ることだけをめざし、努力における正しさという観点を忘れてしまいます。間違った方法によって結果を得ようとした例は、自分自身を振り返っても思い当たるでしょう。また、社会に目を向けると、身の回りで目にするルール違反からスポーツ選手のドーピング、政治家や官僚の収賄に至るまで枚挙にいとまがありません。そしてさらに滑稽なことに、「欲しいもの」のほとんどが、実は「あってもなくてもよかったもの」だったのではないでしょうか。つまり、欲しいものを得るために頑張っても、実はその先には何もない。何もないどころか、さらに激しい乾きがあるということになるのではないでしょうか。

また、「叱られる・馬鹿にされる」とか「地位や評判が下がる」などという「怖いもの」から逃れようと頑張る場合はどうでしょう。努力の結果目標が達成され、とりあえず目先の恐怖から逃れることができたとしても、恐怖から逃れた先にあるのは「達成感」というより「安心感」と言った方がいいでしょう。だから、本当は二度と同じ努力(恐怖)は経験したくない。でも、このタイプの人はそう簡単にこの道から逃れられなくて、常に恐怖から逃走し続けているように見えます。だから、日々大きなストレスを感じながら「頑張っている」のではないでしょうか。頑張ることがすなわち恐怖を感じることになりますから、結果の善し悪しにかかわらず、心身がものすごく消耗するのがこのタイプのがんばりだと思います。

そして怒りをエネルギーに頑張ること。これは多くの「成功者」が行っていることかもしれません。「悔しさをバネに」とか「負けたくない」というのもこのタイプです。これらは等しく、思い通りにいかないことへの「怒り」をエネルギーに行動しています。初期仏教では、怒りを炎にたとえます。「怒りは人を焼き、自分を焼く。」という教えがあるようです。確かに、「怒り」のエネルギーは、普段はしないような思い切った行動を私たちに取らせるほど大きいものだと思います。だから、おそらく夢を実現させる可能性は最も高いのでしょう。しかし、「怒り」が冷静な判断力を失わせ、「怒り」に促された言動のほぼ全てが悪い結果をもたらしている、ということは良識ある大人なら皆知っていることです。要するに「怒り」をエネルギーにして頑張るということは、総合的に考えて良い結果はもたらさず、さらに努力の過程では目的の達成と直接的に関わると思うことにしか取り組まない(関わらないと思うことを無視してしう)ので、無自覚のうちに大切なものを失っているということになるのではないでしょうか。

さて、堂々巡りのようなお話をしてきました。つまるところは、夢を実現するためにどうすればいいのか。または、そもそも夢を持つことは巷で言われるように無条件で善なることなのか。そんな問いかけです。多くの若者が、また多くの大人が夢につまずいて夢に足元をすくわれていると思います。私は、今、漠然と(本当はかなりはっきりと)夢を疑っています。欲望にメッキをかけたら夢になる。そんなふうにも考えています。ではどうすればいいのか。私なりの答えはまた別の機会に。

中学生のみなさんには「夢のない話」に聞こえたでしょうか。

夢の「正体」を見誤って自己欺瞞に陥らないために。
  挙句に自分で自分を探す「自分探しのパラドックス」に陥らないために。
  私自身への自戒を込め、「がんばる」皆さんに最後のお話(問題)とします。

〈平成22年度 「海潮通信」卒業生に向けて(改)〉

ロゴ:ホームへ ロゴ_ホームへ
ホームに戻る


Copyright ©Hisamura,Shinji. All rights reserved.